こんにちは。家庭教師Campライターの瀧本です。家庭教師Campのブログをご覧いただき、ありがとうございます!
お待たせしました。「理想の教師ってなんだろうシリーズ」第2弾です。
前回は夏目漱石作『坊つちゃん』を扱いました
ちなみに前回(初回)の内容ですが、不朽の名作・夏目漱石 作『坊っちゃん』から理想の教師を考えていく、というものでした。結論としては主人公である「坊っちゃん」はそもそも理想の教師ではない!? という話でしたね。
理想の教師ってなんだろうシリーズ①夏目漱石『坊っちゃん』
主人公は職業こそ教師ですが、反骨精神にあふれた性格や難ありな言動で、常にドキドキハラハラが止まらないストーリーになっています。また、全体を貫く軽快な一人称視点の文体から、坊っちゃん本人になりきるような没入感を楽しむならアリだけど、理想の教師って言われるとちょっとね。だいぶね。┐(´д`)┌ヤレヤレ っていう感じでした。そもそも作品は当時、新聞の連載小説がもとでしたから、読者をスカッとさせるような要素を盛り込む必要があったのでしょう。大衆文学として読者の期待に寄り添いつつ、理想の教師ではないにしても、坊っちゃんのキャラは人間像としての理想を追い求めた末の設定なのかな、なんて思うわけですね~。
おっと前置きが長いぞ! それで、「坊っちゃんは理想の教師ではない」という結論に至って初回で趣旨に反することをやってしまいましたので、ぼちぼち仕切り直して2回目のこちらの記事では理想の教師を模索していきましょう! 本日取り上げたいのはこちら! デデン!
太宰治 作「正義と微笑」に登場する「黒田先生」です!!
文豪対決をさせるつもりはないのですが、前回近代文学初期(明治)の文豪・夏目漱石を扱ったので、じゃあ今回は後期(昭和初期)の文豪で太宰かな……という理由です(です?)!
日記小説『正義と微笑』成立時代とあらすじ
ここで取り上げる「正義と微笑」という作品は太宰が 31歳のころに書いたと短編小説です。現在中2の国語教科書でもお馴染みの「走れメロス」はその前年に成立しているため、そこからさほど経過していない頃の作品といえます。
この作品の特徴はなんといっても「日記形式」という形態にあります。16歳の学生である主人公が、今日から日記つけてみるよ~とばかりに、讃美歌や聖書の一節を引用して自分のモットーを高らかに掲げるような志を持ちながら、日々の生活や自分の感情、将来への渇望を事細かに日記につづっていく、という内容です。
日記の書き方は人それぞれでしょうが、この作品はまた自分の心の中のセリフとして書いているタイプで、かつ、またやはり太宰っぽいといいましょうか、日記の主の性格はどうやら、向学心があり努力家ではあるのだろうけれども、完全に謙虚というわけでもなく、周りから認められたいという自己顕示欲や、友人や家族や世間に対しての蔑(さげす)みの気持ちも赤裸々に描かれてあって、ポジティブとネガティブをジェットコースターで往復するような感覚を抱く作品となっています。私はこの作品をだいぶ大人になってから読みましたが、我が身を振り返るような瞬間が何度もあり、悲鳴をあげながら読みましたよ(汗)。若い方もぜひ読んで頂きたいです。そして感想を教えてほしいです!
そう、それで「黒田先生」ですね。日記の最初の方で主人公が「教師論」を語っている箇所があります。そこに出てくるのが彼です。
黒田先生とは何者か
彼の日記によれば、周りにいる教師がたいそうなことを言っているが、実際の中学(当時の中学は現在とシステムが異なります。「高校」くらいのものだと思っておきましょう)の教師なんて「つまらない人」で、「みじめな」生活をしているそうなのに、生徒たちに立派そうな教訓を並び立てるのはいかがなものかと、内心教師たちに対してうんざりしている姿がうかがえます。
さてここで面白ポイント! 教師がどうやら(生徒からしたら)教師らしくなく、立派ではない生活をしていることについて、夏目漱石の「坊っちゃん」にもあるじゃないか、と直接引き合いに出しているところがありますよ! へー、太宰は夏目漱石読んでたんだー。
話を戻します。そこで他の教師たちと一線を画しているのは、昨年で別れた「黒田先生」だというのです。黒田先生は英語の授業中、自分から教師を辞めると唐突に宣言します。その際以下のような言葉を生徒たちに投げかけるのです。
「もう君たちとは逢えねえかも知れないけど、お互いに、これから、うんと勉強しよう。勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ! これだけだ、俺の言いたいのは。」
cultivate という英単語が出てきますが、もとは「耕す」という農作物に対して使う意味です。そこから技能や感性など人間的スキルを「育てる」というような意味にも派生していきます。cultureももとは接頭語のcult(耕作する)から発しているのですね。
黒田先生の理想の教師度
黒田先生は、発した文言から察せうるに、坊っちゃんと系統が同じなのではと怪しくなる経緯で教師を辞めてしまったようなのですが、最後に彼なりの教育論を熱く語りました。そこに感銘を受けて、主人公は「先生に飛びついて泣きつきたくなった」と言っているくらいです。そして先生の言葉が自分に影響を与えたとばかりに日記に一言一句書きこむ……。
多感な時期に、このようなカッコイイことを言う先生がいたら、いいですよね。あれこれ立派そうなことを命令するのではなく、お互いに勉強しよう、というスタンスも高ポイントです。黒田先生がその後日記に出てくることはないのですが、太宰の作品としてもかなり印象的な箇所なので、よく「教養論」として黒田先生のこのセリフは引用されています。
ところで私もかつて生徒から「勉強ってなんのためにするの?」と聞かれたことがありましたが、黒田先生のように答えられたらいいなあと思います……。実際、受験勉強をして何になるのか、勉強と将来はどうつながるのか、不安になる生徒さんの気持ちもよくわかります。勉強がうまくいかない時ほどそうです。黒田先生の言葉は、すべての生徒たちをその場で納得させる答えにはなっていないかもしれないけれど、大人になってからこそ、勉強の体験や知識はジワジワ効いてくることがあるな、と思うことが多々あります。勉強やそこで得た知識を、耕すつもりで付き合うってことが大事なのかなと考えさせられます。
というわけで! ここで理想の教師度を5段階★評価で表すと……
坊っちゃん ★☆☆☆☆
「正義と微笑」の先生 ★★★☆☆
こんな感じになりました。
ふたつ作品が出てくると、比較してしまいますね。人間を比べるというのもまた浅はかかもしれませんが、この教師シリーズが続くとまた評価も変わってくるかもしれません(あるグループのなかで比べて評価をするのが【相対化】です。覚えておこう!)。さてさて次回はどんな先生が登場するでしょうか? 楽しみに待っていてくださいね♪
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【この記事を書いた人】
瀧本
【略歴】
私立大学大学院修了(哲学)。大学院在籍時よりパリ第七大学に留学、帰国後仏語通訳ガイドをしつつ塾講師、家庭教師、通信制高校非常勤講師を務める。
大学院終了後個別指導塾校長を経て個別ena校長に。中学・高校・大学入試を幅広くフォローし、
これまで難関私立中、三鷹中、立川国際中など都立中高一貫校、都立高校の指導重点校や大学附属私立高、GMARCH・早慶上智などへの合格者多数輩出。また、15年以上の指導歴をふまえ、様々な理由から成績不振に陥ってしまった生徒や、不登校生徒をもつ家庭へ包括的なアドバイスも行う。指導のモットーは「遊んで学べ、学んで遊べ」。
個人の主張と対話を育てる小論文指導を得意とする。
こちらのブログには学習・進学に役立つ情報だけでなく、ちょっとした息抜きになるような雑学コラムも載せていきます。