中学・高校・大学
過去問分析

Camp+では、各中学・高校・大学の過去問について、傾向と分析を詳細に解説しています。都立中・都立高を中心に最新の過去問を大問ごとに分類し、傾向が一目で分かります。


東京都立武蔵高校附属中等教育学校 2022年度

〔適性検査Ⅰ〕共同作成問題

〔適性検査Ⅰ〕共同作成問題
〈文章・出典〉[文章1]盛口満「自然を楽しむ‐見る・描く・伝える」による
       [文章2]松原始「科学者の目、科学の芽」
〈出題形式〉
例年と同様、読解問題が2問、作文問題が1問出題されました。作文問題は近年の傾向と変わり、段落ごとの条件指定がなくなりました。読解問題の難度は高くなりましたが、作文問題は取り組みやすいものでした。文字数は文章1が約2600字、文章2が約1900字の計約4500字であり、前年度は文章1で約900字、文章2で約2400字の計約3300字と比べると増加しました。しかし、これは前年度の字数の方が少なく、むしろ今年度の文字数が例年通りであると言えます。
〈各問題の分析〉
〔問題1〕文章横断型の記述問題
文章2の「心躍る景色」が、文章1ではどのように表現されているかを書いて答える問題です。近年の傾向と同様に、傍線が引いてある文章と異なる文章から解答を作る、いわゆる文章横断型の問題です。ただし、前年までの文章横断型の問題と異なり、明確な同意表現などがないため、例年よりも難度の高い一問でした。「書き抜く」ような指示はありませんが、「どのように表現されて」いるかが問われているので文章1で表現されている言葉をそのまま書き抜いて答えればいいでしょう。文章2の「心躍る景色」とは、筆者が自ら立てた仮説を検証した結果から見えてくるもの、つまり新たな発見であることと捉えることができます。それと同義の内容を文章1から探します。学校発表の模範解答は「思わぬ世界」ですが、他にも複数の解答が考えられます。
〔問題2〕2つの具体的な文章の共通点をとらえ記述する問題
文章1・文章2の筆者の生き物研究に対する姿勢の共通点をまとめる問題です。文章1・文章2の内容全体をふまえて考え、分かりやすくまとめる必要があります。
文章1は、少年時代に夢中になった貝殻拾いを本格的に再開することになった筆者が、貝殻拾いを通して新たな気付きや視点を得て、さらにそこで得た新たな問いを検証しようとする過程が描かれています。一方、文章2は、少年時代にカラスに向かって鳴き真似をしたところカラスが鳴き返してきたという経験をしています。そのとき筆者は「自分に対して返事をした」と解釈しました。大学院に入ってからもカラスの研究を続けた結果、「普段から鳴き続けているカラスがたまたまそのとき鳴いただけである」と冷静に考えます。さらにそこから十五年ほどたち、カラスの分布を調査していた筆者が失敗覚悟で、カラスの鳴き真似をしてみると、実際に鳴き返してくるカラスがいることに気付きます。そこから検証を重ね、三十年以上前のあの日のカラスは筆者に実は応えてくれていたのかもしれない、とまとめています。さてこの二つの文章の筆者に共通しているのは、「問い続ける姿勢」です。自分が得た問いや疑問に対して、それを捨てたり安易に納得せず、検証を続けていく。そして新たな問いを立てていくという姿勢です。その結果、新たな視点に気付き、発見を得ることにつながるのですね。同一の抽象表現が用いられているわけでもなく、それぞれの文章内容を理解し、抽象化して答えをまとめる必要がありました。その点で非常に難度が高く合否を分けた問題だったといえるでしょう。
〔問題3〕本文の内容をふまえて作文を書く問題
文章1か文章2のいずれかの筆者の研究や学問への向き合い方をふまえたうえで、これからの六年間をどう過ごしたいか、400字以上440字以内で書く問題です。2018年以降、段落ごとに書くべき内容が指定された形式でしたが、2022年度の問題はその指定がなくなり、「内容のまとまりやつながりを考えて段落に分ける」ように指示がありました。本文の内容を踏まえたうえで、自らの意見を筋道立てて書けば良いだけですので、普段の練習量が出来不出来を左右した問題だったと言えるでしょう。段落構成としては、二段落でも三段落でもいいでしょう。構成例としては、第一段落に、文章1か文章2いずれかの筆者の研究や学問への向き合い方をまとめ、第二段落ではこれからの六年間をどのように過ごしたいか自らの考えを抽象的に書き、第三段落ではその考えをふまえ具体的な今後六年間の行動を書く、といった流れが考えられます。あるいは第一段落に筆者の考えとそれをふまえた自分の意見、第二段落は自らの意見の根拠となる具体例や体験、第三段落はまとめと今後の展望を書く、といったena生が繰り返し練習してきた型でもいいでしょう。

〔適性検査Ⅱ〕

〔適性検査Ⅱ〕
【大問2】日本の工業発展と課題についての問題
〔問題1〕グラフと資料と会話文を結び付けて分析する力をみる問題
1872年の官営模範工場(富岡製糸場)の設立以降における、紡績業と製糸業の発展を表とグラフ(1902年の紡績会社の合併が進むことによる生産力向上がみられるところまで)を参考にしながら、会話文をもとに、綿糸の生産が大きく増えた理由について説明するものです。増産についての記載、特に「蒸気の利用」が要因と会話文中にあるため、比較的容易に解ける問題です。
〔問題2〕表と会話文を結び付けて理解する力と、理解した内容を適切に記述する力をみる問題
武藏くんとお父さんの会話から、表やグラフ内の工業地帯、工業地域の名前を考えるものです。さらに資料中から、2つの工業地帯、地域を選び、その特色としての共通点、または相違点の分析、そして、その背景や理由を説明するものです。工業地帯、地域の特徴が会話文より容易に読み取れるため、書きやすい問題です。都立中の適性検査の中では珍しいタイプの出題ですが、問われていることそのものは平易でしたので、こちらも必ず正解しておきたい一問でした。
〔問題3〕表と会話文を結び付けて理解する力と、理解した内容を適切に記述する力をみる問題
武蔵くんとお父さんの会話から日本の工業発展と課題を考える問題です。
二人の会話から、1999年以降の水質の状況について分析し、水質汚濁を防ぐために、関係者はどのような改善の手立てをしているかについて考えるものです。条件は数値による比較を必ず書くことです。表とグラフの内容が分かりやすいことに加え、有害物質を取り除く、工業用水を再利用するなどの説明が会話文中にあるので、受検生にとっては答えやすいものでした。
2021年度との比較で問題を分折しますと、量、質ともに受検生の実態と合致した適正なものと考えられます。2021年度は答えやすい問題ではありましたが、分量が多く、時間配分を間違えてしまうと最後までたどり着かないような量でした。質も国語の読解のような問題でしたが、2022年度は文系問題としては定番といえる標準的なものでした。また、2021年度まで頻出問題としてされていた計算問題が2022年度はありませんでした。

〔適性検査Ⅲ〕

〔適性検査Ⅲ〕
武蔵高附属中の独自作成問題です。例年通り、大問2題、小問6題の構成で、大問1が算数分野から、大問2が理科分野からの出題でした。大問1は万げ鏡や鏡を題材とした問題でした。〔問題1〕と〔問題2〕は平面図形の問題としてとらえることができ、〔問題3〕は立体図形の間題でした。〔問題3〕も含め、それほど複雑な内容ではなく比較的解きやすい問題でした。大問2は生き物の資料や調査結果を題材にした問題でした。大問2全体として、与えられた資料や調査結果は比較的シンプルなものでしたが、解答するためには、理解力や考察力が必要でした。

【大問1】万げ鏡や鏡を題材にした問題
〔間題1〕円の内側にできる正三角形を題材にして、記述力をみる問題
円の直径が6cmのときに、円の内側につくることのできる正三角形の1辺の長さが6cmより短くなる理由を、言葉と図を使って説明する問題でした。6cmより短くなることの理解は容易ですが、それを説明することができるかどうかが正否の分かれ目でした。言葉だけでなく、図を使って説明する、ということは、6cmより短くなければならないことを視覚的に示せる、ということですから、条件自体を考え方のヒントにすることができる問題でした。最初の一問らしい、難度が低い、正解しなければならない一問です。
〔問題2〕万げ鏡をのぞいたときにみえる模様を題材に作図力をみる問題
万げ鏡をのぞいたときにみえる模様をかく問題でした。模様が鏡を境目に線対称の図形となることや、示されたルールを踏まえて、条件を満たす模様をかく必要がありました。また問題文に模様の面積についても条件がかかれているため、注意深く条件を確認して模様をかく必要がありました。問われているものが理解できれば、平易な問題ですが、設定やルールが複雑であり、問題の理解でまずふるいにかけられてしまう一問でした。
〔問題3〕鏡に映る立体を題材に、空間把握力をみる問題
複数の立方体を3枚の鏡に映るように置いたときに、鏡に映る立体と置いた複数の立方体を合わせてできる立体について考える問題です。複数の立方体をどのように置けば条件を満たすのか、置き方を答える問題でした。図8は鏡を用いた立体図形に関しての問題としてはよく見る形式の問題ですが、回転させた場合と合わせて考える、ひとひねり加わった問題でした。適性検査Ⅲの中で、正否を分けた一間といえます。
【大問2】生き物の資料や調査結果を題材にした問題
〔間題1〕動物がジャンプで移動できるきょりを題材に思考力をみる問題
動物がジャンプで移動できるきょりを、資料に示された数値を使用して比べる方法を考える問題でした。きょりの数値をそのまま比べるのではなく、ほかの数値を使用してきょりを比較する必要がありました。きょり以外の数値として体長と体重が与えられていましたが、例えば、体長の何倍のきょりをジャンプしているかを計算して比較する方法が容易に考えられたでしょう。
〔問題2〕アゲハチョウの行動を調べた実験結果を題材に理解力をみる問題
アゲハチョウの行動を調べた実験結果をもとに、実験結果から読み取れることと、さらに読み取れたことから考えられることを示す問題です。どの実験結果から何が読み取れるかを正確に判断することが重要でした。対照実験の考え方を基本として、8通りある実験について、それぞれ何の条件が変わっていて、その条件が結果にどのように影響したかを判断する必要がありました。
〔問題3〕キンギョまたは切花を題材に思考力をみる問題
キンギョまたは切花が元気である理由について書かれた仮説について、どちらかの仮説を選び、仮説の検証方法を考える問題でした。元気をどのような数値で表し検証するかを考える思考力が問われる問題でした。やはり対照実験の考え方が重要です。どちらも温度条件や環境について示されているため、比較的考え易い問題でした。元気を表す数値としては、同じ時間にキンギョでは泳いだきょり等が考えられ、切花については同じ時間で、葉や茎が伸びた長さ等が考えられます。